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巻頭言 ソーシャル・キャピタルの構築 日本下水道事業団 理事（研修・国際担当） 野村 充伸 日頃は日本下水道事業団（以下、ＪＳ）研修事業にご理解とご協力を賜り、心より感謝申し上げます。私は平成25年11月に研修・国際担当理事を拝命致しました。今後とも皆様のご指導、ご鞭撻よろしくお願いします。 ＊ ＊ ＊ ＊ さて、最近、私は経営学に興味を持ち、いろいろな本を読んでいます。読んでいると34年間にわたるＪＳでの生活で、漫然と考えていたことが、ハーバード大学、ＭＩＴなどで学術的に研究されていることがよくわかり、一方で、その成果に感心してしまいます。たとえば、最新刊の本によると、経営学の世界では「ソーシャル・キャピタル」という言葉が存在感を増してきているとされていました。まず、ソーシャルといえば、フェイスブック、ツイッター等のソーシャル・ネットワークや漠然とした社会に関することを思い浮かべます。経営学での「ソーシャル・キャピタル」は社会関係資本と言われ、公共事業によるハードの社会資本とは全く異なるものです。 ソーシャル・キャピタルとは「人と人が関わり合うことで生まれる便益」と定義されています。つまり、人と人が関係性を持つこと、そのものが資本になりうると考える訳です。身近な例で言えば、いわゆる「ご近所付き合い」も立派なソーシャル・キャピタルと言えます。近所付き合いが密であれば、それぞれの世帯が互いのことをいつも気にかけるので、知らず知らずのうちに「相手に頼る、頼られる」関係が出来上がります。例えば、ある世帯の子供が外で一人で遊んでいても、近所の方がそれを見ていてくれれば「おたくのお子さんは公園で友達といたわよ」など情報提供も日常的に受けることができます。このことは、ご近所付き合いというソーシャル・キャピタルがあることで、子供の安全という便益を得ているのです。 ここで言う信頼関係は性善説ではなく、密な人間関係のもとでは「自分が相手に良いことをすれば、いつかそれが何らかの形で自分に返ってくる」という期待感があるために相手を合理的に信頼するということになります。このような枠組みを1988年にシカゴ大学のジェームズ・コールマンが提唱しました。以降、さまざまな研究の中で人の結びつきが人や活動の成果を高めることが実証されています。 代表的な研究として、2009年にピッツバーグ大学のピルとリアーナがアメリカのある地域において199の公立学校で教師1,013人と四、五年生24,187人を対象に統計的に分析しました。これは、子供の学力については教師個人の能力だけではなく、その教師が同僚や上司とどれだけ親密な関係を築いているか（ソーシャル・キャピタル）にも影響を受けるのではないかという仮説を証明するためのものでした。その結果、見事に教師個人の能力はもちろんのこと、教員間や教師と校長の人間関係が密なほど生徒の成績を押し上げる効果があったとなりました。人間の関係性であるソーシャル・キャピタルは仕事の成果に大きな影響を与えることが実証された訳です。まさに、何となく直感で感じていた円滑な業務推進のために良好な人間関係が必要であることが、学術的に証明されています。ここが経営学の面白いところです。 ＊ ＊ ＊ ＊ 翻って、私どもの研修事業を見てみると、ＪＳ研修は座学ではなく、実習、演習、分析などの実務に重点をおく一方で、合宿生活をすることで濃密な人的なネットワークを作ることも大きな特徴として挙げられています。事実、多くの研修生のＯＢの皆様が長年、同窓会を続けていらっしゃるとよく耳にします。さらに、その人的なネットワークは、仕事においても役に立っているとのお話もあります。このことは、ＪＳの研修事業で築かれた人間関係は、「ソーシャル・キャピタル」として下水道界に根付いていることに他なりません。すなわち、私どもの研修事業が経営学で現在、大きな潮流となっている「ソーシャル・キャピタル」を、事業開始以来41年の間、営々と築き上げてきたものであると考えずにはいられません。 私どもＪＳでは、実学を中心として、健全で強固な「ソーシャル・キャピタル」を形成するための質の高い研修を、引き続き実施して参る所存です。本年4月よりは、受講料を値上げさせて頂く予定ですが、研修生のお持ちになっている課題により丁寧に対応するため「課題解決型ディスカッション」、幅広い情報と専門外の分野の教養を身に付けて頂くための「ウィークリー特別講座」などを開催し、より一層の内容の充実で研修生の皆様の満足度の向上を目指します。今後とも、事業団の研修事業に一層のご理解とご協力をお願い致します。 第４７号研修みずのわ（1）巻頭言ソーシャル・キャピタルの構築日本下水道事業団　理事（研修・国際担当）野村　充伸

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